
『聯合艦隊司令長官 山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実―』
2011年公開、成島出監督、役所広司主演。
主人公は連合艦隊司令長官・山本五十六。開戦前からアメリカとの国力差を熟知し、日米戦争には最後まで慎重だった山本が、それでも開戦が決まると軍人として任務を全うし、真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦、そして戦死に至るまでを描いている。
一人の軍人の伝記にとどまらず、「戦争はどのような組織や社会の中で始まり、誰にも止められなくなるのか」を問いかける作品。
英雄礼賛にも自己否定にも偏らず、一人の軍人の葛藤を通して、日本という国家の意思決定の難しさを静かに描いている。
そのせいか、本作は映画全体の印象は薄い。
山本五十六を描いた映画やドラマは、いくつか見たが、山本の伝記としてはアメリカ留学時代(1919~1921年、ハーバード大学)は、欠かせないと思う。
しかし、多くの五十六を描いた作品は、それは数分の回想程度で済まされることが多く、物語の中心にはほとんど据えられない。
しかし、史実を考えると、あの2年間は山本という人物を理解するうえで最も重要な時期の一つだと思うのだが・・・。
理由はいくつかあると思います。
映画は「戦争」を描きたいから
映画の多くは、
真珠湾攻撃
ミッドウェー海戦
山本の戦死
というドラマチックな場面を中心に構成されるため、
アメリカで石油産業や工業力を見学したり、
野球を観戦したり、
人々の生活を観察したりする
留学生活は、映画としては地味に映るのだろう。
しかし実際には、この「地味な経験」こそが、
「アメリカとは戦うべきではない」という山本の確信をつくったのだった。
山本は「親米派」ではなく「現実派」だ。
アメリカの
石油生産量
製鉄能力
自動車工業
造船能力
などを数字で見て知っていた。
つまり、「好きだから反対した」のではなく、
「勝てないから反対した」という現実主義者だ。
この点を丁寧に描けば、従来の英雄像とも悲劇の軍人像とも異なる、非常に知的な人物像になったのではないか。
それは、2~3時間の映画では難しいのだろうが・・。
ーーー
私がむしろ見てみたいのは、
「ハーバードの学生・山本五十六」
を主人公にした作品だ。
実際、山本五十六という人物の悲劇は、真珠湾攻撃ではなく、
「アメリカを最も知っていた軍人が、そのアメリカとの戦争を指揮しなければならなかった」
という一点に凝縮される。
その悲劇の原点こそ、留学時代にあったと言えるからだ。